HBR-1000開発(11) テストの問題点
暫定テスト回路について、いくつかの問題点がある。それらについて改善策を講じていくことにする。
- スイッチングNchMosFETのゲートドライブ回路
スイッチングを素早く行うためには、できれば、ゲートにはスパンとキレの良い矩形波を供給したい。そのために、この回路では、プッシュプルというNPNとPNPのトランジスタを組合わせてある。
しかし、いくら切れの良い矩形波が供給できたとしても、インダクタ(コイル)を使う場合には、スイッチング回路を切った瞬間に生じる高電圧で半導体素子が破壊されてしまっては元も子もない。そのため、ゲートドライブ回路には10~30Ω程度の抵抗を入れ、矩形波を少しだけなまらせてやる必要がある。
一般に、NchMosFETは、立ち上がりは早く立下りが遅い性質がある。つまり、ONさせるためには電流値を考慮しつつ適度な抵抗を介してゲートに電流を供給したい。一方、OFFさせるためにはゲートのコンデンサから低抵抗で早く電流をGNDに逃がしたい。つまりは、ONの時の電流供給ラインとOFFの時の電流を逃がすラインで抵抗値を変えることでより素早くかつ安全な電流値でゲートをコントロールする必要がある。抵抗の配置場所に工夫が必要だ。 - ノーマリOFF動作
今回は、PICマイコンでプログラムで制御してゲートをドライブする。プログラムが正しく動けばよいのだが、最初はうまく動かないのが当たり前。そんな時に、スイッチ素子を壊さないように保護機構を準備しておくことが重要だ。
テスト回路では、電源ラインにポリスイッチという電流が増えた場合に急激に抵抗値が増加することで電流制限をするリセッタブルヒューズを入れてある。しかし、それとて万全ではない。電流が切れるまでにはポリスイッチの反応時間が必要だ。それまでは電流ループに配置された部品に過電流が流れ、高負荷がかかってしまう。できれば、そうなることもできるだけ避けられるようにしなければならない。
この回路の課題は、PICマイコンの制御が正しく行われる以前はゲートドライブの信号ラインの電位が不確定となってしまうことである。NchMosFETは、ゲートをソース電位+2Vを超えるとドレイン-ソース間に電流が流れ始める。制御ラインが浮いた状態だと、2Vを超える可能性は十分ある。
この現象を回避するためには、制御ラインを抵抗でGNDにプルダウンしてドライブされていない場合はGND電位にする必要がある。しかし、プルダウン抵抗を入れるということは、正しく制御されている場合にも、その抵抗を通って電流が流れるため、無駄な電流が流れてしまうことに他ならない。素早くGNDに落としつつ、無駄な電流を最小限に抑えるための最適な抵抗値はいかほどか。 - 貫通電流の監視
さらに、マイコン制御下にある場合、スイッチ素子に流れる電流を監視できれば、異常電流が流れた場合に素早くゲートを閉じて電流を遮断することができる。電流センサにはACS712など、ホール素子を利用してもよいがコストが大幅に上がってしまう。
最近、秋月電子で小さいチップ抵抗を扱い始めた。最小抵抗は7mΩで、10mΩ、20mΩなどの1Wチップ抵抗がラインアップされている。これだけ小さな抵抗であれば、数A程度の電流による損失は小さく抑えることができ実用的だ。今回は、これを利用して電流検知することにしよう。 - 電圧低下時マイコン電源OFF
PICマイコンへの電源供給ラインにエミッタ-コレクタ接続されたPNPトランジスタで、バッテリ電圧が設定値以下の場合にマイコンへの電源供給を停止させる制御を行っている。この回路では、ベース-エミッタ間の電位差が0.7V以上になると電力供給制御のトランジスタがONする。この電圧はベースに接続されたツェナーダイオードで固定的に設定している。
しかし、できれば、バッテリの電圧に応じて、もう少しきめ細かい制御を行いたくなることが想定されるため、プログラムにて柔軟に対処できるようにした方が良さそうだ。ただ、そうすると、マイコンに電力供給を停止すれば消費電力を抑制できるものが、マイコンできめ細かく制御するということは、マイコン自体を停止させることができなくなる。消費電力を抑制するには、マイコンのスリープ機能や割込み機能を駆使し、プログラムで消費電力低減の制御までしなければならず、プログラムが複雑化する。今回は、あえてチャレンジすることにしよう。
これらの改善を加えると、回路はこんな形になった。